中国物流が無人化で進化中:AI×ロボットが支える“30分配送”の現実

画像出典:JDロジスティクス
はじめに
深夜22時に注文した生鮮食品が、翌朝には玄関先に届く——。午前3時の物流センターでは照明が煌々と灯り、仕分け作業が始まり、配達員は早朝6時から動き出します。この超高速な物流の裏側には、中国物流業界が「人手依存」から「テクノロジー主導」へと大きく舵を切った現実があります。
自動仕分け、AIによるスケジューリング、無人配送車、柔軟な勤務体制。これらが一体となって、新たなスマート物流モデルが次々と誕生しています。
物流ハブの無人化が加速中:ロボットとAIが支える仕分け革命
かつて人手に頼っていた仕分け作業は、今やロボットと自動化システムが主役です。JDロジスティクスの「アジアNo.1」倉庫では、Geek+(極智嘉)の自律移動ロボットが1日200万個以上の荷物を処理。仕分け効率は3倍に向上し、人件費も60%削減されました。
また、アリババグループの菜鳥網絡(Cainiao)ではAGV(自動搬送車)を導入し、「分単位」の高精度仕分けを実現。エラー率は驚異の0.05%以下に抑えられています。
さらに、Quicktron(快倉智能)の「Honghu(鴻鵠)」システムでは、デジタルツイン(仮想倉庫)の活用により、1倉庫あたり1日100万件のオーダー処理が可能に。Hai Robotics(海柔創新)の「箱から人へ」ロボットは、保管密度を従来の3〜5倍に向上させました。
配送の“手足”も進化:無人配達とラストワンマイル最前線
仕分けが物流の「脳」なら、配達は「手足」。中国では無人配送の実用化が急速に進んでいます。
JDロジスティクスは30都市以上で第6世代の無人配送車を導入。AI感知モデルと軽量マップ技術によって、複雑な住宅街や狭い路地でも自律走行が可能です。EV仕様のため環境負荷も小さく、CO2削減にも貢献しています。
SFエクスプレス(順豊)は深圳や横琴(マカオ近郊)での試験運用を通じて、1件あたりの配送コストを1.32元(約28円)削減し、全体の効率を30%向上させました。
市場規模は2025年に439億元(約9,300億円)、2030年には5,948億元(約12兆円)へと拡大すると予測されています。
ただし課題も残ります。特殊環境への対応、法整備の遅れ、充電インフラ不足といった問題は依然として大きな壁であり、政府と企業の連携が不可欠です。


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30分で届く?即時配送とサプライチェーンの革新
「30分以内に届くかどうか」が物流企業の競争軸となる時代。JD七鮮(JD Fresh)は「倉庫兼店舗」モデルを採用し、30分配送を実現。美団(Meituan)は全国5万ヶ所の加盟店で1日500万件の注文を処理し、2027年には10万ヶ所体制への拡大を計画しています。
生鮮物流における革新も進んでいます。JDロジスティクスは、大連産のサクランボ専用貨物機を運航し、北京・上海圏への翌朝配送を実現。冷凍点心なども、36都市で半日配送が可能になりました。さらに、天候に応じて保冷剤の量を調整するなど、緻密な運用ノウハウが積み重ねられています。
人間も主役に:労働環境とスキルのアップデート
スマート化が進んでも、人間の役割は消えません。たとえば、SFは広東省の汕尾市でフレックスタイム制を導入し、繁忙期の人員調整を柔軟に対応。福州の配達員・王成氏のように、AIによる効率的なルート設計を活用しながら、全国労働模範に選ばれる事例も増えています。
求人広告では「地元勤務」「社保完備」「社員寮あり」といった待遇を打ち出し、月収は25万円(約1.5万元)と安定した給与水準を提示。今後は、配達員が「無人車オペレーター」や「トラブル対応専門職」などへと進化する未来も視野に入っています。
スマート物流は「新しい生産力」の象徴
中国の物流革新は、単なる“配達のスピード競争”にとどまりません。倉庫の無人化、専用貨物機の導入、グリーンロジスティクス、即時配送といった要素は、消費者の利便性だけでなく、製造業やサプライチェーン全体の高度化にも直結しています。
政府による智能製造促進基金、水素AGVの実証実験などが進めば、物流は“インフラ”から“新しい経済基盤”へと進化するはずです。
私たちが「寝る前に注文して、朝には受け取る」便利さを当然のように享受できる背景には、アルゴリズム、ロボティクス、そして人間の知恵が融合した巨大なスマートネットワークが存在しています。