Gmailがパスワードから卒業する日──次世代ログイン体験「パスキー」とは?

Gmailがパスワードから卒業する日──次世代ログイン体験「パスキー」とは?

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はじまりは、いつも「パスワード」だった

長年にわたり、私たちは「パスワード」に守られてきた。最初のメールアドレスを作ったときも、ECサイトに初めて登録したときも、その入口には必ず「パスワードを入力してください」の一言があった。

けれど2025年の今、Googleがその常識を壊そうとしている。

Gmailのログイン方式が大きく変わる。Googleは、従来のパスワードによる認証を段階的に廃止し、パスキー(Passkeys)やQRコード認証への移行を進めている。これは一時的な試みではなく、「今後の標準」として宣言されているものだ。

Googleが変えようとしている「当たり前」

Googleは単に新しいログイン方法を導入するのではなく、「パスワードという文化」そのものを見直そうとしている。これはセキュリティ対策という側面だけではなく、インターネットのUX(ユーザー体験)そのものの再構築にもつながる大きな転換点だ。

これまで当たり前だった「パスワードを思い出す」「定期的に変更する」「複雑にする」という行為そのものが、次の時代には不要になるかもしれない。

背景には、パスワードという仕組みの限界がある。

人間は、複雑な文字列をいくつも記憶できるようにはできていない。つい簡単なものを設定してしまい、同じパスワードを複数のサービスで使い回す。それが、サイバー攻撃の温床となってきた。

「パスワード漏洩」や「リスト型攻撃」はもはや珍しいニュースではなくなり、個人のミスが企業全体の情報漏洩につながることもある。安全のためのパスワードが、いつのまにか“弱点”になっていたのだ。

さらに深刻なのが、攻撃者の手口が年々巧妙化していることだ。フィッシングメールは本物そっくりになり、AIが生成した詐欺メッセージも登場している。SMSによる2段階認証すらも、SIMスワップや通信傍受によって突破されるケースが増えている。

これまで有効だった「少し面倒な安全策」が、もはや時代遅れになりつつある。

パスキーという“新しい自然”

そこで登場したのが「パスキー(Passkeys)」だ。

これは物理的なカギでも、数字でもなく、端末に保存された秘密鍵を用いた認証方式。スマートフォンやPCの生体認証(指紋・顔)を使ってログインする仕組みで、ユーザーは何も覚える必要がない。

認証情報はクラウドではなく端末内に保存され、仮にサーバーがハッキングされても情報が漏洩する心配がない。Apple、Microsoftとの互換性もあり、複数デバイス間の同期もスムーズ。シンプルでありながら、極めて安全な方法として注目されている。

Gmailでは、すでにパスワード欄が表示されないケースも見られるようになっている。QRコードを使ったログイン、モバイル端末でのワンタップ認証など、「入力しないログイン」が着実に広がっている。

もはや、「ログイン」とはパスワードを打ち込むことではなく、自分の存在を確認することへと変わりつつある。
入力ではなく、認証。セキュリティは、より静かに、スムーズに、そして確実になっていく。

「最後のパスワード」を打った日

私たちはこれまで、面倒でもパスワードを打つことで、自分の「安心」を確かめていた。
けれどこれからは、その“安心”さえも見えないところで支えられる。

強いセキュリティと快適な操作感は、もはやトレードオフではない。
これからは「覚えなくていい」「盗まれない」「操作が速い」ことが当たり前になる。

いつか、「あの日が最後にパスワードを打った日だった」と振り返ることになるかもしれない。
その日は、すでに目の前に来ている。