なぜ中国では「お湯」を飲むのか?日本との食習慣の違い|日中ちがい図鑑

なぜ中国では「お湯」を飲むのか?日本との食習慣の違い|日中ちがい図鑑

「お飲み物は、白湯にしますか?それとも冷たいお水?」
もしこんな質問をされたら、あなたはどちらを選びますか?

これは中国と日本、それぞれの“当たり前”が分かれる場面のひとつです。

なぜ中国では「お湯」を飲むのか?

▸ 歴史的背景:国を挙げた衛生運動の影響

1950年代、中国では朝鮮戦争時における細菌戦への対策として「愛国衛生運動」が展開されました。
この中で「水は必ず沸かして飲むべき」という健康指導が全国に広がり、以後「お湯=安全で衛生的」という意識が社会全体に根付きました。今でも高齢世代を中心に、「水は沸かして飲むもの」という考え方が強く残っています。

▸ 茶文化が育てた“温かい飲み物”の習慣

中国では古代からお茶の文化が発展し、唐の時代には煎じ茶、宋では点茶、明以降は沸騰したお湯で茶を淹れるスタイルが一般化しました。
このように日常的に“熱い飲み物”を口にすることが当たり前であったため、「冷たいものを飲まない」ことへの抵抗感は少なく、白湯も自然に受け入れられてきました。

▸ 中医学の価値観:「冷たいものは体に悪い」

中医学(中国の伝統医学)では「体を冷やすことは病の元」とされており、「脾胃(消化器官)は温かさを好む」との考え方が根付いています。
冷たい水は“寒気”や“湿気”を体に溜め込むとされ、体質が弱い人や女性には特に「冷たい水は避けるべき」とアドバイスされることが多いのです。

▸ 水への不信感と「沸かす」という安心感

中国の多くの地域では、長年にわたり水道水の質が安定せず、「そのまま飲むと危険」という意識がありました。
そのため「一度沸騰させてから飲む=安全」という意識が広まり、たとえ現在では水質が改善されても、習慣として熱いお湯を飲む人が多く残っています。

▸ 食生活との関係:温かいものでバランスを取る

中国の食事は油やスパイスを使う料理が多く、冷たい飲み物は「消化を妨げる」と感じる人もいます。
また、涼しい季節には「熱を補う」感覚で温かい飲み物が好まれやすく、胃腸にやさしい白湯は、特に朝食や夜食の場面でよく登場します。

AIにより生成された1980年代の中国の飲食店のイメージです。

日本では「冷たい水」がスタンダード

一方、日本の飲食店では、季節を問わず「冷水(お冷)」が提供されるのが一般的です。
注文しなくても座った瞬間に氷入りの水が出てくるこのスタイルは、日本人にとって“当たり前”のサービスとなっています。

その背景には、いくつかの理由が挙げられます。

まず、冷たい水には口の中をリフレッシュさせ、次の料理をより美味しく味わえるという実用的な利点があります。
また、水道水特有のカルキ臭(塩素のにおい)も、冷やすことで感じにくくなり、結果として「美味しく感じる」と多くの人が言います。

さらに、ネット上では次のようなユニークな意見も見られます:

「氷水は、ただの水ではなく“料理”だ」
「水を汲んだだけでは単なる水。でも氷を入れて温度を整えると、それは一つのおもてなしになる」
「果物もそのまま出せばフルーツだが、皮をむいて切り分ければ料理になる。それと同じ発想だ」
「常温だと水のにおいが気になりやすいが、冷やすとそれが抑えられ、より“おいしい”と感じる」

このように、冷たい水の提供には味覚的な工夫や提供の美意識が込められているとも言えるでしょう。

少しだけ歴史を振り返ってみると…

実はこの「冷たい水」が定着したのは、比較的近代以降のこと
かつての日本では、囲炉裏や火鉢などで常に湯を沸かしており、白湯(さゆ)やお茶が飲料として一般的でした。炭火は一度つけたら簡単に消せないため、燃焼中の熱を無駄にしないよう、湯を沸かしておくのが生活の知恵だったのです。

ところが、冷蔵庫が普及し、氷が安価に手に入るようになった現代では、氷水が最も手軽で快適なおもてなしとして定着しました。
つまり、現代の「冷たい水文化」は、技術の進歩と経済性、そして食の美意識が重なって生まれたものとも言えるのです。

AIにより生成された日本の飲食店のイメージです。

■ 結びに

一杯の水。その温度ひとつをとっても、私たちの暮らしや価値観、文化の背景が浮かび上がってきます。

中国では「体を温めること」が健康への第一歩とされ、日本では「すっきりと気持ちよく食べること」が美意識の一部になっている――
そこにあるのは、どちらが正しいかではなく、それぞれの土地で育まれてきた「心地よさ」の形です。

もし旅先や異文化のレストランで、いつもと違う飲み物が出てきたとしても、
「なんで?」ではなく、「こういう文化なんだ」と思えたら——それだけで視野はぐっと広がります。

水の温度は違っても、心の温度は近づける。
そんな柔らかな感覚を、次の一杯から始めてみませんか?