海がくれた静けさと自由──私がめぐった、6つの海の記憶

海がくれた静けさと自由──私がめぐった、6つの海の記憶

「あなたには、ただそこに行くだけで、心が静かになる場所はありますか?」

私にとって、それは、海です。

よく聞かれます。
「どうしてそんなに海が好きなの?」って。

うまく答えられません。
でも海辺に立って、空と海が溶け合う水平線を見つめ、足元に波がやさしく触れてくると、
心の中に渦巻いていたものが、ひとつずつ溶けていくのを感じるんです。

海は何も語らないけれど、誰よりも人の心をわかってくれる気がします。

だから私は、いろんな海をめぐるようになりました。
それぞれの「青」を追いかけて。

大連|北の海は、こんなにも優しかった

最初に海に心を奪われたのは、中国の大連でした。

ここは私が大学生活を過ごした場所。
恋も、青春も、たくさんの「はじまり」が詰まった特別な街です。

何年経っても忘れられません。
朝、窓を開けたときに感じるあの潮風。
南国のような強烈さはないけれど、静かで、広くて、穏やかな北の海が、そこにはありました。

大連の海は派手じゃないけど、じんわりと心に沁みる。
まるで、何度読んでも味わいが深まる、古い小説のようです。

海南|陽光と笑顔にあふれる、島の休日

次に訪れたのは、中国の海南島。
飛行機を降りた瞬間、湿った熱気と緑の香りに包まれました。

海南の海は、明るくて、人懐っこくて、まるで太陽のような友達みたいでした。

特に印象的だったのは、亜龍湾でのシュノーケリング。
カラフルな魚たちがサンゴの間をすり抜けていくのを、私は息を忘れて眺めていました。

天涯海角の大きな岩たちは、何も語らないけれど、
そこに立つだけで、多くの人の愛の物語を知っているような静かな存在感がありました。

沖縄|青と青のあいだにある、やさしい島

日本に留学していた頃、念願だった沖縄を訪れました。
この旅で、私は「一番好きな海」に出会います。

古宇利大橋の上から眺めた海は、
空の青、海の青、珊瑚の青が何層にも重なり合い、まるで水彩画のよう。

沖縄の海と、そこに暮らす人々はとてもよく似ています。
おだやかで、やさしくて、こちらの心にそっと寄り添ってくれるような存在。

海辺でオリオンビールを飲みながら、波の音とギターの音色に耳を傾ける――
あの時間だけ、世界の時間がゆっくり流れていた気がしました。

「人生は、もっとゆっくりでいいんだよ」
沖縄の海は、そんなふうに教えてくれた気がします。

タイ|ロマンチックでちょっと熱い、夜の浜辺

タイに行ったのは、大学の卒業旅行。
大切な友達と一緒に訪れた思い出の旅です。

プーケットの白いビーチ。
ヤシの葉の間から差し込む光が、まるで映画のワンシーンのようでした。

夜になると、海辺は音楽と花火と笑い声であふれていて、
私たちは裸足のまま、歌って、笑って、写真を撮って――
「明日どこへ行くかなんて、今はどうでもいい」って思えた。

あのとき気づいたんです。
旅は、遠くへ行くことよりも、“誰と見るか”のほうが大事なんだって。

ベトナム&マレーシア|静けさの中にある、美しい自由

ダナンやランカウイ――
観光客で賑わう有名な場所ではないけれど、
ひとりでふらりと歩くのに、これほど心地よい海は他にないかもしれません。

朝の潮風、街角の小さなカフェ、古い街並みに灯る明かり。

何をするでもなく、ただ、ぼーっとしていたくなる場所。
そんな場所で、少しずつ自分自身を見つめ直せた気がします。

海辺の石に座って、
オレンジから群青へと移り変わる空を見つめるひととき。

それは、孤独の美しさであり、自由の深さでもありました。

そして最後に:迷ったときは、海へ行こう

私はずっと思っています。
海は「感情」そのもの。

嬉しいときにはキラキラ光り、
悲しいときには黙ってそばにいてくれる。

たくさんの海をめぐって、私はひとつのことに気づきました。

人は遠くを目指すとき、逃げたいからじゃない。
本当に求めているのは、“心を置ける場所”なんだ。

だからもし、あなたも少し疲れていたり、
どこへ向かえばいいのかわからなくなったりしていたら──

海に会いに行ってみてください。
きっと、あの静かな青があなたにそっと伝えてくれます。

「だいじょうぶ。あなたは、それだけで、じゅうぶん素敵だから。」