卓球ラケット完全ガイド|ブレード・ラバー・接着剤・国際基準まで網羅

卓球用具の選定は、プレースタイルや技術レベルに大きく影響を与えます。中でも「ブレード(ラケットの木材部分)」「ラバー(ゴム)」「接着剤」は三位一体であり、それぞれの特徴を理解することが上達への近道です。
この記事では、ブレードの構造や種類、ラバーの特性、接着剤の種類、さらには国際基準やプロ選手の使用例、購入アドバイスまで、総合的に解説します。
ラケットの“心臓部”|ブレード(ラケットの木材部分)
ラケットのブレードは、ラバーを貼るための木材土台であり、打球の感触、回転のかかりやすさ、スピード、コントロール性能など、あらゆる側面に直結する最重要パーツです。一見ただの木の板に見えるかもしれませんが、実際には高度な設計と積層技術によって作られています。

一般的なブレードは「合板構造(plywood)」になっており、5枚合板や7枚合板が代表的です。5枚合板は柔らかくしなる構造で、ボールをつかむ感覚に優れ、回転主体のプレースタイルに向いています。一方、7枚合板は層を増やすことで剛性を高め、よりスピードと直進性を重視する速攻型に好まれます。
近年では、これらの木材層の間にカーボンやアリレートカーボン(ALC)、ゼイロンカーボン(ZLC)などの特殊素材を挟んだ5+2構成、7+2構成のハイブリッドブレードが広く普及しています。さらに、特殊素材の配置位置によっても性質が異なり、カーボンを外層に配置した「アウタータイプ」は弾きの強さに優れ、インナー層に組み込んだ「インナータイプ」は木材に近い打球感とコントロール性が特長です。

使用される木材にも多くの種類があり、それぞれ打球感・弾み・重さに明確な違いがあります。たとえば、アユースは柔らかく軽量で初心者に扱いやすく、リンバはバランスが良く多くの競技用モデルに採用されます。コトは硬めで、弾きが強くスピードプレーに適しており、日本式ペンホルダーで使われる単板構造には、独特の弾性を持つ檜(ヒノキ)が好まれます。
ブレードは単なる「板」ではなく、設計されたしなり、反発、重量バランスが選手の手の延長として機能する道具です。メーカーごとに積層構成、接着剤、乾燥処理、繊維の向きなどに独自のノウハウが詰まっており、その違いが打球感に如実に現れます。
ブレードの構造と種類まとめ
層数:一般的に5枚合板(5枚構成)または7枚合板(7枚構成)があります。カーボンやアラミド繊維、グラスファイバーなどの特殊素材を加えた5+2、7+2構成(例:カーボンブレード)も人気です。
5枚合板(5-ply): 柔らかく、ボールを掴む感覚が強く、コントロール重視のプレーヤー向け。
7枚合板(7-ply): 硬めでスピードが出やすく、攻撃型プレーヤーに人気。
特殊素材入り: カーボン、アラミド(アリレート)、ZLC(ゼイロンカーボン)などを内層や外層に挟むことで、反発力や打球安定性を向上。
アウター構造: 直接的な打球フィードバックと高反発が特徴
インナー構造: 木材の打球感を残しつつ、特殊素材の安定感を得る
木材の種類と特性まとめ
アユース(Ayous): 軽量で柔らかく、初心者向けラケットに多用。
リンバ(Limba): バランスの取れた打球感。欧州系ラケットに多く、上級者にも支持される。
コト(Koto): 硬くて弾きが強く、スピード系プレーヤー向け。
檜(Hinoki): 日本式ペンホルダーに使われる。単板構造で厚みがあり、高反発。
プレースタイル別おすすめ
ドライブ重視型: インナーALCや5枚合板(柔らかめ)
前陣速攻型: アウターZLCや7枚合板(硬め)
守備型・カット型: 柔軟な木材中心の純木合板
ラケットの“肌”|ラバー(ラケットのゴム)

ブレードがラケットの骨格だとすれば、ラバーはボールとの接点となる「肌」です。表面に貼り付けられるこのラバーによって、ボールにどのような回転がかかるか、どれだけ弾むか、打球の質感がどう変化するかが決定されます。
ラバーは大きく分けてトップシート(表面ゴム)とスポンジ(クッション層)の2層構造で成り立っています。トップシートには回転性能に関わるゴムの質と形状があり、粒の並び方や高さ、硬さが回転量と打球音に影響します。スポンジは打球時のエネルギーを吸収・解放するクッション機能を持ち、厚さや密度、気泡構造によってボールの弾み方やスピード感が変わってきます。
現在主流のラバーは「裏ソフト」と呼ばれるタイプで、トップシートのツブが内側に向いている反転型ラバーです。そのなかでも、中国製に多い粘着系(ネバネバして回転がかかりやすい)と、欧州系に多いテンション系(表面張力がありスピードに優れる)に大別されます。
一方、粒が外向きになっている「表ソフトラバー」や「粒高ラバー(ロングピンプル)」は、ナックルボールや回転反転など、独自の変化球に特化しており、異質プレースタイルで多用されます。また、「アンチスピンラバー」のように、意図的に回転を打ち消す構造を持ったラバーも存在しますが、使用者は限られます。
スポンジの厚さは1.5mm〜2.2mm程度が一般的で、厚くなるほどスピードや飛距離が増し、薄くなるほどコントロールしやすくなります。また、硬度(スポンジの硬さ)も非常に重要な要素で、硬めのラバーは球離れが早くパワーヒットに向いており、柔らかめのラバーは「つかむ」感覚に優れており、回転重視や安定志向のプレイヤーに好まれます。
構造と種類まとめ
トップシート(表面): 回転性能やボールの噛み具合に影響
スポンジ(クッション層): 弾み、スピード、回転量に関係
裏ソフト(反転ラバー): 最も一般的。強い回転が可能。
・粘着系(中国製): 回転力に優れるが、スピードは控えめ。
・テンション系(欧州製): 弾きが強くスピードが出る。
表ソフト(ショートピンプル): ナックルや変化ボールを出しやすく、速攻型向き。
粒高(ロングピンプル): 回転を受けにくく、反転させやすい。カットマンや変化系スタイル向け。
アンチスピン: 回転を打ち消すラバー。特殊戦型に。
スポンジの厚さと硬度
厚さ(1.5~2.2mm): 厚くなるほどスピードと弾みが強化。薄いとコントロール重視。
硬度(30°~50°程度): 硬いとスピード・回転向き、柔らかいとつかみやすく安定。
接着剤とメンテナンス用品|性能を引き出す下支え
ラバーをブレードに貼る際には、ITTFのルールに適合した接着剤を使用する必要があります。かつては「スピードグルー」と呼ばれる有機溶剤系の接着剤が使われていましたが、現在では健康面と環境への配慮から禁止され、「水溶性グルー(WBG)」が標準となっています。
WBGは安全性が高く、匂いも少ないため、初心者からプロ選手まで幅広く使われています。ラバーとブレードの密着性を高めるだけでなく、ボールとの一体感や振動の伝わり方にも影響するため、丁寧な貼り付けが求められます。なお、非公認ながらラバーの反発性を一時的に強化する「ブースター」と呼ばれる液剤も一部で使用されていますが、公式戦での使用は禁止です。
そのほか、用具の寿命や性能を維持するためには、エッジテープや保護フィルム、ラバークリーナー、ローラー、カッターなどの周辺用品も重要です。特に高性能なラバーは表面の摩耗や酸化に弱いため、毎回の練習後に専用のスポンジとクリーナーで汚れを落とし、保護フィルムを貼って保管するのが理想です。
接着剤の種類まとめ
水溶性グルー(WBG): ITTF公認、安全・無臭で現在の主流。
スピードグルー: 過去に使用された有機溶剤系。現在はVOC規制により禁止。
ブースター: ラバーの反発を一時的に高める液体。ITTF非公認が多い。
その他の周辺用品まとめ
ラケットケース、エッジテープ: 用具保護・耐久性向上
クリーナー、保護フィルム: ラバー寿命の延長
ローラー、ハサミ: 張り替え作業用
国際ルールと用具の適合条件|ITTF基準に沿った正しい選定を
国際卓球連盟(ITTF)は、公認大会における用具の仕様を厳格に定めています。ブレードは85%以上が天然木材で構成されている必要があり、ラバーにはITTFの認証マークが刻印されていることが条件です。
また、ラバーは片面が「黒」、もう片面が「赤」であることが原則ですが、2021年からは青・ピンクなどのカラーバリエーションも一部解禁されています(ただし2面が異なる色である必要あり)。ラバーとスポンジの合計厚は最大4.0mm以内に制限されており、VOC(揮発性有機化合物)を含む接着剤の使用は禁止されています。
これらの基準を理解せずに用具を選ぶと、公式大会で失格となるリスクもあるため、選定時には必ず確認しましょう。
プロ選手の使用用具とブランド動向
現在世界で活躍するトップ選手の多くは、各メーカーと契約を結び、自分のプレースタイルに合わせた特注モデルを使用しています。たとえば、中国の樊振東選手はButterfly Viscaria FLをベースにしたモデルを、馬龍選手はDHS(紅双喜)のHurricane Long 5を長年愛用しています。
日本では張本智和選手がインナーフォース構造のSUPER ZLC、戸上隼輔選手がALC(アリレートカーボン)構造のインナーモデルを使用。スウェーデンのモーレゴード選手はSTIGAの独創的な形状を持つCybershapeシリーズを選んでいます。
ラケットブランドとしては、日本のButterflyが世界的シェアと性能で突出しており、スウェーデンのSTIGAや日本のNittaku/Yasaka、中国のDHSなども国際大会で多数使用されています。ラバー面では、テンション系で名を上げたTIBHARやDonic、粘着系に強い729(Friendship)や銀河(Yinhe)など、個性的なメーカーも根強い人気があります。
世界のトップ選手が使用するブレード例
選手名 | 国籍 | 使用ブレード |
---|---|---|
樊振東 | 中国 | Butterfly Viscaria FL(特注) |
馬龍 | 中国 | DHS Hurricane Long 5(紅双喜) |
張本智和 | 日本 | Butterfly 張本智和 インナーフォース SUPER ZLC |
戸上隼輔 | 日本 | Butterfly 戸上隼輔 ALC(インナー構造) |
張継科(引退) | 中国 | Butterfly 張継科 ALC |
主な卓球用具ブランドと特徴
Butterfly(バタフライ): 日本製。ブレード・ラバーともに高性能で競技者に人気。
STIGA(スティガ): スウェーデン発。ブレード開発力に強み。
DHS(紅双喜): 中国トップ選手御用達。粘着ラバーに定評。
Nittaku/ヤサカ: 日本ブランド。コントロール性や安定感に優れる。
TIBHAR/Donic/729/銀河: 欧州・中国系ブランドで、個性的なラインナップも豊富。
購入と選定のポイント|最初の一本にこそ慎重さを
卓球用具は価格帯が広く、ブレードは¥5,000〜¥25,000、ラバーは1枚あたり¥3,000〜¥10,000程度が目安です。初心者にとって重要なのは、値段や評判に流されることではなく、自分のプレースタイルや握り方、筋力やフォームに合った「扱いやすいモデル」を選ぶことです。
まずは軽量な5枚合板と中硬度・中厚の裏ソフトラバーの組み合わせが、安定したフォーム作りに最適です。中級者になると、プレースタイルに応じてインナーALCやテンションラバーを選び、競技志向であれば重量バランスや打球感の微調整までこだわるフルカスタム構成へと進化していきます。
卓球専門店での試打、YouTubeなどでのレビュー比較、ラバーの貼り替え体験を通じて、用具に対する“身体的な理解”を深めていくことが、長期的な成長につながります。
まとめ|用具はあなたの意志を伝える“道具”である
卓球における用具選びは、単なる道具選びではありません。それはあなたのプレースタイル、考え方、戦術、そして成長の方向性そのものを映し出す“選択”です。
用具に正解はありません。重要なのは、あなたにとって「信頼できる一打」を実現してくれるパートナーを見つけることです。そのためには、構造や材質を知り、選手やコーチの意見を参考にし、自分の身体で試して確かめていくことが何より大切です。
卓球は道具と共に進化するスポーツです。正しい理解と選定で、あなたのプレーを次のステージへ導いてください。
以下に自分のラケットの写真を添付します。
